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No.1 「ぼくのふるさと」 山下史雅 (比文'13)No.1 My Hometown Fumimasa Yamashita (College of Comparative Culture 2013)

画像:比較文化学類2年 山下 史雅ふるさとって一体何なのだろうか。一体何が私にふるさとに思わせるのか。生まれてから大学進学を期に家を出るまで、ずっと過ごしたあの街のことを思い出す度に、少しだけ胸が痛くなる。故郷が恋しいという時の、「恋」という言葉をより近くに感じるようなった。まるで故郷を思う気持ちは、恋のような繊細な気持ちなのである。
そんな私だが故郷を離れる前までは、あの街が大嫌いだった。田舎でもなく、かといって都会でもない。いわゆる田舎風の親密なコミュニケーションがある訳でもなければ、洗練された都会風の付き合い方でもない。そんな中途半端なあの街をいつも馬鹿にしていた。だから街を出る時、ようやく嫌な街から離れてのびのびと暮らせると清々した気持ちだった。しかし今から思えば、あの時少しだけ(のつもりだった)寂しさや何とも言えない僕の故郷に対する愛着を感じていた気がする。その思いがだんだん広がってきて、今僕の気持ちを捉えて離さないのだろう。
「ふるさとは遠くにありて思うもの」という詩の通りだ。いつもそばにあっては、故郷はわからない。離れてみて初めて分かることも往々にしてあるものだ。つくばの道を歩いていても、この道はどこか故郷のあの道に似ていると感じ、ノスタルジックな感傷にひたりながら、故郷での思い出に浸る。友達と泥まみれになりながら遊んだあの川、いろんな人と出会った学校、いつも誰かを待っていた待ち合わせの駅前。そのどれも愛おしく、懐かしい。どこにでもあるなんの変哲もない場所なのに、きっと僕にだけ迫ってくる特別な場所なんだと思う。
きっと人に訊かれたらさんざん悪口を言ってしまうくらいの街だけど、特にめぼしいところもないなんてことないところだけど、そんなところが僕の唯一の故郷であって、いつか帰る場所なのだ。故郷に対する答えなんてきっと一生わからないだろう。
今日も故郷の母に電話でもしようと思ったが、なんだか気恥ずかしくてやめた。これはふるさとへの気持ちとよく似ている。

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