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卒論体験記「フィクションの意義」【三宅温(文化創造論コース)】

私は「フィクションの意義―ドラマが描いた東日本大震災とその変容―」という題目で卒論を執筆しました。東日本大震災を扱ったテレビドラマを題材に、震災の描かれ方の変化や制作陣の震災との向き合い方等を分析しました。そして、現実に起きた出来事である震災を、報道やドキュメントとしてではなく、敢えて“フィクション”で伝える意義について論じました。

ところで皆さんは、どのような経緯でこのページをご覧になっているのでしょうか?コース選択に悩む大学1・2年生や、卒論執筆を控えている3・4年生が多いと思います。ひょっとすると、進路選択中の高校生の方々もいらっしゃるのではないでしょうか?

ということで、私の卒論体験記は、他の皆さんの体験記と少し趣向を変え、卒論執筆に至るまでの人生のターニングポイントを振り返る形で書きます。ちょっと長くなりますが、最後までお付き合いいただけるとうれしいです。

 

(1) ドラマ制作への興味

(初っ端から少し重い話をします(笑))

中学生の時、ある病気が原因で体が動かせなくなりました。長期間にわたって学校を休まざるを得なくなり、心身ともに苦しい時期が続きました。そんな時、私を励ましてくれたものの1つが“テレビドラマ”でした。自分の力ではどうしようもできない困難に直面しても、未来を信じて前に進む登場人物たちの姿を見て、大きな勇気を貰いました。この経験から、テレビドラマを企画するプロデューサーになり、今後は私が誰かに勇気を届けたいという夢ができました。

 

 

 

(2) フィクションと現実と

表現に関わることなら何でも学べそう!という理由で、比較文化学類に入った私にとって、大学での学問の原点となったのは、1年次に受講した表現文化領域入門演習(吉原ゆかり先生)の授業です。小説『赤毛のアン』を題材に、当時のカナダの社会を読み解く授業で、私は、期末レポートとして『赤毛のアン』が発売された時代のカナダ、『赤毛のアン』の翻訳版が発売された戦後の日本、そして『赤毛のアン』の翻訳家・村岡花子の生涯がドラマ化された現代の日本を比較し、『赤毛のアン』が求められる社会の共通点を論じました。普段何気なく楽しんでいたフィクションの中にも、社会で起きている様々な現実が関与していたことに気が付き、強い衝撃を覚えました。

この時期から漠然とですが、「フィクションと現実」というものが研究したいテーマの1つとなり、これが卒業論文にも繋がりました。

 

(3)「映像のまち推進課」との出会いードラマの現場へー


大学2年次には、吉野修先生のご紹介で、栃木県の足利市役所の職員の方と知り合いました。当時の足利市は「映像のまち構想」(映像コンテンツを用いた地域活性の施策)を掲げ、ドラマや映画の撮影誘致を積極的に行っていました。私は比文の「独創的教育プログラム」を活用して、インターシップという形で足利市役所の「映像のまち推進課」に受け入れてもらいました。

足利旧西高


【写真(1)】学園ドラマの撮影によく使われる足利旧西高
映像のまち推進課

【写真(2)】大学卒業前に「映像のまち推進課」の皆さんと撮った記念写真

 

インターン中、足利市内でたまたまロケを行っていたドラマのスタッフの方々と親しくなった私は、そのドラマの制作スタッフとして働くこととなりました。以来、テレビドラマのスタッフをしたり、自分自身でも映像作品の制作に挑戦したりする中で、ドラマというものは、様々な意味で「フィクションと現実」が入り乱れる面白いコンテンツであると感じました。

ドラマの内容(物語性)に社会で起こる出来事が描写されることはもちろん、撮影する段階においても、現実に存在する場所で実在する人々が架空の物語を演じるという行為がとられます。これは、小説や漫画にはない、映像作品ならではの面白い特徴です。

このような経験から、2・3年次は、物語性ということだけでなく、制作過程や撮影場所、ロケ地で生活する人々の文化、芸術・表現を楽しむ人々の文化、メディアの歴史、劇伴曲など、あらゆる観点から映像作品に関する研究を行いました。様々なジャンルの授業の中で、自分の興味のある分野に関連付けて思考を巡らせることができるのは、比文ならではの特徴だったなと感じます。(私は、古文や比較宗教、文化地理、民俗学、英語などの授業においても、ドラマに結びつけて期末レポートを書いていました。比文の先生方は、こんな破天荒な私のレポートを面白がってくださりました。本当に感謝しております...)

 

(4) 2021年3月11日

そんなこんなで、あっという間に3年生の3月になっていました。3年次までは卒業論文として、足利市の「映像のまち推進課」の事業と足利市民の映像文化との関わり方から見える「フィクション」と「現実」との関係性について論じたいと考えていました。しかし、3年次の3月、卒論として扱いたい内容が変化しました。

私は大学で、東日本大震災の復興を支援する学生団体(といっても、東北の皆さんから学ばせていただくことばかりなのですが…)に所属し、被災地の皆さんや県外に避難されている皆さんと共に、様々な活動をしていました。

陸前高田

【写真(3)】陸前高田のうごく七夕祭り

4双葉町

【写真(4)】双葉町連絡所での夏祭り@つくば

 

そのため、震災から10年を迎える2021年3月11日が近づくにつれて増えていったテレビ、新聞、インターネット等のメディアの震災の取り上げ方に大きな興味を抱いていました。特に、震災直後はあまり作られることのなかった震災が描かれたドラマが、10年という月日を経て数多く制作されるようになったことに関心を持ちました。

ここで、ある疑問が沸きました。

“そもそも震災は、報道やドキュメンタリーで何度も報じられているのに、何故、フィクションであるドラマで取り上げる必要があるのだろうか?”

“フィクションにしか伝えられないことがあるのだとしたら、それは一体、何だろうか?”

今後、ドラマのプロデューサーを目指すにあたって基本中の基本であり、フィクションの本質に立ち返るような、核心でありながらも、非常に答えの出しづらい疑問が浮かんだのです。

こんな時期になって卒論の内容を変更してもいいものかと、おそるおそる主査の吉野修先生に連絡し、自分の気持ちを伝えたところ、「三宅さんにとって、より切実な問題が見つかったのではないか」という前向きな回答を頂き、卒論の内容変更を決断しました。

 

(5) いざ、卒論執筆!

それからは、急ピッチで研究を進めました。東日本大震災が描かれたドラマについての先行研究は行われていなかったため、フィクションについての論文や東日本大震災とメディアに関する文献を手当たり次第に読み漁りました。また、震災に関する資料館に足を運んだり、震災についてのドキュメンタリーや芸術作品なども鑑賞したりと、様々な方法で少しでも知識を増やせるように努めました。

6月ごろからは、東日本大震災を扱ったテレビドラマ(計37作品224話分)を実際に視聴し、制作時期や、作品内での震災の扱われ方、震災の表現方法、登場人物の属性等に注目し、作品分析を行いました。その他にも、ドラマの監督や被災地でドキュメント撮っているディレクターの方に実際にインタビューをしたり、ロケ地や東北に住む方々にお話を伺ったりなど、文化創造論コースの論文でありながらも、フィールドワークも行い、研究を進めました。

気仙沼

【写真(5)】秋晴れの気仙沼

富江町

【写真(5)】秋晴れの気仙沼

浪江町

【写真(7)】冬の浪江町・双葉町訪問

大好きな東北

【写真(8)】大好きな東北!卒業後も度々足を運んでいます!

 

8月頃から本格的に卒論を執筆し始めたのですが、フィクションの意義を語るためには、事実を扱う報道やドキュメントとの違いも考えなければなりませんでした。その結果、震災を扱ったメディア全般について取り上げる必要があったことや、震災が関連するドラマの本数が想像以上に多かったこともあり、書いても書いても書き終わらない状態が続きました。また、扱っている内容が東日本大震災ということもあって、時に心が苦しくなったり無力感に襲われたりしたために、執筆の手が止まることもありました。

しかしながら、いつも温かく迎えて下さる東北の皆さんや、東北まで送り迎えをしてくれた家族の支えもあり、研究を続けることができました。そして何よりも、卒論の提出日ギリギリまで粘り続ける私に、最後の最後まで、熱量を持って向き合ってくれた主査の吉野修先生のおかげで、何とか書き上げることができました。

 「ドラマ」と「東北」という学生生活を語る上で欠かせない2つの要素を真正面から扱ったこの卒論は、私のこれまでの集大成となったと考えています。それと同時に、ドラマのプロデューサーを目指すうえで逃げられない難題である「フィクションの意義」について考え抜くことができたことは、私の将来への第一歩になったと感じています。

また、卒論の執筆を通じて、私はこれまで、たくさんの方に支えてもらい、応援してもらっていたということを改めて実感しました。素敵な方々と出会えた私は本当に幸せ者です。支えてくださった皆さんと一緒に書き上げたこの論文は私にとって宝物です。

卒論

【写真(9)】提出した卒業論文@学類長室

 

卒業後、私はテレビ局に入社しました。現在は、番組制作・報道・営業・スポーツなど様々な部署で研修をしています。この時代にテレビ局だからできることは何か、伝えなければいけないことはどんなことだろうかと、試行錯誤の日々を過ごしています。ドラマを制作できるようになるのは、何年後になるのかは分かりませんが、論文を書く中で見つけたフィクションの大いなる力を信じて、観た人々がちょっとでも生きることに前向きになれるようなドラマを届けていきたいです。

つくば山

【写真(10)】自然豊かなつくば!今でも時折、遊びに訪ねています!

授業で登った想い出の筑波山に、会社の同期とも登ってきました!

 

それでは、皆さんの実りある学生生活と、卒論の完成を心より応援しております!

 

 

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