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卒論体験記 【文化人類学コース】

【卒論体験記 小島健一さん】

私は、「現代アルメニア社会における音楽の役割について-大衆音楽『ラビス』の考察」というテーマで卒業論文を執筆しました。とはいえ、初めからこのテーマに決まっていたわけではなく、卒論提出の半年前にようやく方向性が定まりました。ここでは、卒論のテーマ決めから、留学、調査、執筆というタイムラインで私の卒論体験記を紹介したいと思います。

 

テーマ決め

まず、卒論を書くにあたって一番大変だったのは、結局自分は何がしたいのかという疑問に向き合うことでした。比較文化学類は、興味のあることなら何でも学ぶことができる素晴らしい学類です。その反面、興味を広げ過ぎて収集がつかなくなる人もちらほらいるようです。私もそんな「比文迷子」の一人でした。もともと音楽や異文化に興味を持っていましたが、入学後は言語学や宗教学、社会学、文化人類学など、より幅広い分野に興味が広がり、いざ卒業論文となると何を研究したらいいのか分からない状態になっていました。自分だけでは答えが出てこなかったので、先生や先輩に相談したりもしました。そうする中で、ようやく、自分が没頭できる分野は言語と音楽だろうと思うようになりました。そして、せっかく卒論を書くのなら、その両分野を生かして書こうと思いました。また、文化人類学コースの専攻だったこともあり、いつか留学をして現地調査をするつもりでいました。以上を踏まえて迷いに迷った結果、学部時代にご縁のあった南コーカサスのアルメニア共和国に留学をし、現地で研究テーマを見つけることにしました。留学前に卒業単位をほぼ取り終え、現地語も少し習得してからアルメニアへ旅立ったのは4年次の秋でした。

小島さん1

校舎の窓から見えるアララト山。ノアの箱舟が流れ着いたとされるアルメニアのシンボル。

 

留学

現地の大学では、日本人が少なかったこともあり、日本語学科で日本語会話の授業を担当していました。それも週に3~4コマあり、ロシア語やアルメニア語など、本来の自分の履修科目との両立に追われ、初めの数か月は卒論のことなどすっかり忘れていました。ただ、それが良かったのか、現地での生活に慣れ始めたころ、日常生活で素朴な疑問を感じることが多くなりました。例えば、タクシーの運転手が「これはアルメニアの音楽だ」と言って聞かせてくれた音楽に対して、「それはアルメニアの音楽じゃない」と大学の先生に否定されたこと、それから、アルメニア語で歌う路上ミュージシャンのそばを通りかかったとき、「これはアルメニアの音楽と言われているけど、聞くのも恥ずかしい」と学生たちが苦笑いしていたこと。そうした特定の音楽に対する知人のリアクションを見るうちに、その背景を調べてみたくなったのです。「アルメニアの音楽だけどアルメニアらしくない」と感じる人がいるからには、きっと何かが背景にあるはずだという単純な好奇心でした。その頃、ご指導を賜っていた塩谷哲史先生の、「留学してみて初めて分かる現地の側の視点もある」というご助言を思い出し、この疑問を卒業論文にするのもありかもしれないと思うようになりました。

小島さん2

筆者が交換留学をしたロシア・アルメニア大学の校舎

 

調査

 いざ調べてみると、当該の音楽ジャンルは国内でかなり普及しているジャンルであるにもかかわらず、先行研究が非常に少なく、アルメニア人の音楽学者にはほとんど触れられていないということが分かりました。こうなると余計にやりがいを感じてしまうタイプで、音楽学や民俗学、言語学や文化人類学の先生、様々な大学の大学生、CDショップの店員、現役ミュージシャンなど、あらゆる人にその音楽ジャンルに関するインタビューを行いました。その他、資料収集の目的で、現地の科学アカデミーや音楽博物館、図書館や小さな古本屋まで思いつく限りの場所を訪れ、関連の資料がないかどうか調べて回りました。今思えばかなりの労力を費やしたのですが、調査を通して自分の大好きな語学を生かすことができ、さらにアルメニア音楽の現状に触れることができたため、非常にやりがいを感じていました。また、「変わった研究をしている日本人がいるぞ」と興味を持ってくれ、知り合いを紹介してくれる人がいたり、今でも連絡を取り合う友人に出会うことができたりと、人の輪が広がっていく楽しさにも、研究の醍醐味を感じました。

小島さん3

エレヴァン市内の路上で演奏するミュージシャンたち

 

 執筆

 さて、8月末に帰国し、12月に卒論の提出を控える中、私は膨大な量のインタビュー録音と読むべき資料の数に圧倒されていました。インタビューからうかがえる人々の思いはそれぞれ違うため、うまくまとめることができず、目を通すべき資料も英語、ロシア語、アルメニア語で書かれているため、一つの論文を読むのにも普段の何倍も時間と労力がかかりました。また、卒論の執筆と並行して、週の半分は東京の音楽学校に通い、音楽心理学や実技を学んでいたため、苦手な時間管理をしなければ締め切りに間に合わなくなりました。しかし、意外にも、時間がないときほど集中して作業を進めることができました。膨大なインタビューの書き起こしは、多言語が混在していて特に骨が折れる作業でしたが、留学生の友人の力を借りつつ何とかまとめることができました。また、書き起こしてみるとそれまで気が付かなかった意見の類似点や相違点が見えてきました。無理に論を一般化することなく、インフォーマントの思いを丁寧に読み取り、それをアルメニアの歴史的、文化的、社会的、政治的、美学的な背景に照らし合わせることで、現代アルメニア社会でこの特定の音楽がどんな役割を担っているのか考察するように努めました。結果、すべてを出し切って、締め切り日より早く卒論を提出することができました。

 

 以上、テーマ決めから、執筆まで、私の経験を書きました。今、卒業論文を読み返すと、どの章もまだまだ調べたいことばかりが残っていますが、同時に、執筆に没頭していた時間が懐かしく、研究全体を通して学ぶことや得るものが多かったと思います。特に、私の場合は、先生方や先輩、友人と相談しながら自分の関心と向きあい、卒論の方向性を決めることができたこと、留学を通して新たな出会いや視点が得られたこと、卒論に費やす時間が少なかったせいでむしろ執筆がはかどったこと、そして先生方の的確なご指導や様々なご縁があって、完成まで漕ぎつけることができました。卒論には人それぞれの取り組み方がありますが、この体験記が少しでも参考になれば幸いです。

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