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教員コラム(2) からだではかる(徳丸)Faculty Column (2) Measuring by Body (Prof. Tokumaru)

 昭和30年代生まれにとってプラモデル制作は子供時代の最もポピュラーな趣味であった。模型の縮尺には、35分の1、48分の1、72分の1など様々なものがあり、何故このように半端な縮尺なのか当時は不思議であった。飛行機模型の48分の1縮尺はモノグラム社の飛行機など輸入製品で一般的に用いられ、それが日本の模型にも採り入れられたものである。48分の1縮尺は、4フィート(約122センチ)を1インチ(約2.5センチ)に、72分の1縮尺は、6フィート(約183センチ)を1インチに換算した結果である(岡部ださく『世界の駄っ作機』1999年 大日本絵画 64頁)。一方、田宮模型は、全世界に35分の1の戦車模型を定着させたが、この縮尺は、戦車をモーターで走行させる際に内蔵する単二電池二本の幅が基準となっていることは良く知られている(田宮俊作『田宮模型の仕事』1997年 ネスコ 59頁)。

 実際に模型を制作してみると、その大きさは実に手に良く馴染む。戦車のプラモデルを作って持ち上げようとする場合、35分の1だと、戦車の横幅を片手で掴める。これが72分の1や76分の1縮尺であると親指と人差し指でちょいと摘まむような感じになる。当時、高嶺の花であった25分の1のチーフテン戦車は、子供の片手で持ち上げることは不可能であった(先日、再販品を作って確認した)。シングルモーターで直進する戦車をキャタピラに触れないように持ち上げて、そのまま方向転換出来る大きさで、適度にデフォルメした精密感を示せるのが35分の1という大きさである。35分の1縮尺の戦車模型を机に置いて片目をつぶって模型と同じ高さに目を近づけると、結構実車を見るような遠近感が得られる。韓国ソウル市の戦争記念館は、戦争に関わる展示を行い、かつ、戦死者を慰霊する場所ともなっている。外庭には朝鮮戦争に用いられた旧ソビエト製やアメリカ製の戦車が陳列されている。実物の戦車に近づいて見た印象と、戦車模型に横方向から近づいて片目で見た印象とは結構近いものがある。模型の縮尺は、単なる計測単位の置き換えによってのみ成立しているものではなく、人の手や目になじむというところに大きな意味がある。

 はかるという行為も人のからだと大きな関係がある。天体観測を行う際には、腕を水平に伸ばしてこぶしを握ると、それがほぼ10度の角度にあたり、例えば水平線からこぶし三つ積み重ねた高さに星があれば、それは水平線から30度の高さにあることになる(ウェブサイト「げんこつを使った高度のはかり方、NHK for school」)。

 身体を用いた計測は、海で働く人々には良く知られているものである。北茨城市でかつて小型帆船を駆使して小鯛の釣漁を行っていた漁師さんによると、水深に応じた道糸の長さなどを船上で計測する時には、両手を広げた大きさを一尋(約1.82メートル)とするが、その半分の大きさをはかる時には左手を伸ばし、右手を胸の中心に置いてはかる。番えた矢を引き始める形に似ていることから、これをヤビキ(矢引)という。尺貫法での一尺(約30.3センチ)をはかる際には手首から肘までの尺骨を用いるが、これは尺の原義そのものである。また、海上では、陸地の大きな樹木や建物、神社などを目当てとして、その位置関係から自分の位置を確認することをヤマシメと呼んでいた。これは今でいう交差方位法である(北茨城市教育委員会編『常陸大津の御船祭調査報告書』2014年 著者執筆頁)。

 長さや角度、距離の計測が、多くの場合、生業活動の場における実践であるのに対して、重さの計測はそれ以外の場面でも現れる。今でも神社の境内の隅などに大きな丸い石が置かれていることがある。これを力石(ちからいし)といって、かつては、集落の若者達がそれを持ち上げて力を競ったり、あるいは、一人前の男となったことを周囲に誇示した。石一つの重さは、米俵一俵の重さと同じだといわれることもある。その場合、石を持ち上げる得ることは、農作業の中で米俵を肩に担いで運ぶ力があることと同意であった。

 京都伏見稲荷や今宮などでは、おもかる石といって、神社に祈願を行う者が願を掛けた後に石灯籠の空輪や奉納された石を持ち上げ、それを軽く感じるか重く感じるかで願いが叶うか否かを判断する。重い、軽いという感覚は、あくまでそれを持ち上げる者の主観によるが、人の願いの成就の可否は、重さという身体感覚に置き換えられ、神意として示される。
重さや長さは、私たちの生活の中で、人のからだとその感覚に極めて緊密に結びついて捉えられている。                

  (2015年7月18日)

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