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Welcome比較文化学類へようこそ

学類長からのご挨拶Greetings from the Chair of the College

比文らしく、自分らしく

Be yourself as a member of the College of Comparative Culture

 

 少し前に「痛み」について考えたことがありました。

 北ギリシアの山村の小さな教会で、聖母マリアのイコンにつけられた銀製の「乳房」を見たことがそのきっかけでした。この乳房は「タマ」とよばれる奉納物で、母乳が出ないことに苦しんだ母親がイコンに祈りを捧げた結果、我が子に授乳できるようになったことを感謝してイコンにつけたものでした。もはや誰がつけたかわからない乳房のタマが、村の教会のイコンにつけられたままでいる。肉体性を抑制して作られたイコンに、かすかなふくらみを持つ銀の乳房が嵌め込まれている。このイコンを目にして、タマをつけずにいられなかった母親と、それを許した村人たちの「痛み」と「歓び」についての文化的な感覚や身体性を知りたくなり、村の人びとに話を聞きました。人びとがタマについて語る言葉は少なく、ただ彼らはタマが伝える痛みの場を教会に開くことを許していたのです。蝋燭の光、歌、香で満たされたその場は、祈りの場になっていました。

 私たちは、他者の痛みをすべて共有することはできません。ましてやそれについて語ることも難しい。それでも、その痛みに寄り添うことができるとギリシアの村の人たちは教えてくれました。しかしながら、寄り添うことも、簡単なことではありません。コロナ禍、戦争・・・世界はいま、人間の苦悩、涙、叫びに覆われています。無力さ、絶望、悲しみに囚われ、途方にくれて立ち止まることもしばしばあります。そんなとき、出会った人びととの何気ない会話や、書物のなかの言葉、画集や美術館で見た絵画、奏でられた音楽がこころを支えてくれます。学問は、そのような出会いを際限なく与えてくれます。

 比較文化学類は、文化と文化が出会う場、コンタクト・ゾーンを学びの場、フィールドとしています。多様な言語や思考が混交するコンタクト・ゾーンでどのような文化が生起するのか、そこで発生した文化がどのように育まれ、受け継がれ、更新されていくのか。比較文化学類は、そのプロセスを見つめる場です。また、その場そのものが、さまざまな人びとや文化が触発しあうコンタクト・ゾーンを形成しています。この場では、他者の「痛み」も「歓び」も、迫ってきます。だからこそ、混沌とした現在の向こうに広がる未来へと寄り添うことができるはずです。

 

比較文化学類長 山口惠里子
Eriko Yamaguchi
Head of the College of Comparative Culture

学類長顔写真

 

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