1. ホーム
  2. 学生のページ
  3. リレーエッセイ
  4. No.8「バースデイ賛歌」 新谷修一(比文'12)

Students’ Page学生のページ

No.8「バースデイ賛歌」 新谷修一(比文'12)No.8 Birthday Anthems Shuichi Niiya (College of Comparative Culture 2012)

 「最近、私は誕生日を祝うという習慣が理解できない。そうじゃないですか?自分の誕生ならまだわかる。でも、他人の誕生を祝うんですよ。まったく意味が解りませんね。解りかねます。」「いやいや、そんなことないでしょう。家族や友達に感謝したり、祝福する日が必要じゃあないですか?」「祝福、祝福ねえ。まぁ、そうだとしても、君たちは誕生日なんて大そうなものを作らないと人に感謝したり祝福できないなんて滑稽じゃないですか。どうせ、お祭り騒ぎする口実が欲しいだけでしょう。仕舞には二千年も前の偉人様の誕生日すらお祝いしだす始末...」

 僕の頭の中には何人か人が住んでいて、彼らは絶えずおしゃべりしている。僕はそれを聞き流しながら、友人の部屋へ急いでいた。時は西暦二〇一五年六月。僕がまだ中央アジアの某国家に留学していた最中の話である。所々に穴が開いた歩道を早足で歩き、雨も降っていないのに水がたまった水たまりを越え、やっとのことで友人の部屋にたどり着く。その友人の誕生日パーティーが開かれているのである。ここで、誕生日パーティーの模様を詳しく述べるつもりはない。ただ、僕はここである発見をした。

 「あなたの成功を祈ります。あなたの誕生日をお祝いします!」「あなたの一年が幸福なものになりますように!」「誕生日おめでとう!あなたの健康、そして長寿をお祈りします!」

 誕生日の参加者が、思い思いの祝辞を述べる。彼らの国では参加者一人一人が祝福の言葉を言わなければならないのである。定型文に、各自がアレンジを加え、他人と被らないように今日の主役を祝福するのである。それにしても、その定型文の多いこと。そして、祝辞の長いこと!

 嗚呼、友人を祝福できるなんてなんて幸せなんでしょうね。どうやら僕の番が回ってきたようだ。ロシア語で簡単な祝辞を言おうとしたら、周りの皆が「日本語でお祝いを言ってよ!」と囃し立てる。そうか、日本語か。日本語ならばと、口を開けど、出てきた言葉は「誕生日おめでとう!」の一言だけ。その他何を続ければいいのか、だいたい日本人って人の誕生日で長ったらしい弁舌を揮ったっけか??

 そう、日本語には誕生日を飾る語彙が少ないというのが僕の発見である。

 日本には「数え年」という習慣があった。これは年齢の数え方もさることながら、年の初めに人が歳を取るという考えでもあった。諸説あるが、戦前までは庶民の間で誕生日を祝うという習慣はなかったようだ。地域によっては死に近づくということで、年を取ること自体をあまりめでたくないものと捉えていた地域もあるようである。誕生日にケーキを食べ、皆でお祝いするという習慣ができるのはどうやら戦後になってからのようだ。

ns

 こう考えてみると、日本語に誕生日を祝福する言葉が少ないのも納得がいくような気持ちになる。「誕生日おめでとう」これは明らかに「Happy Birthday」の直訳である。それに先に挙げたような祝福の言葉を日本語で声に出してみると、なにか落ち着かないような気がするのは、誕生日を祝うという習慣が誕生してまだ日が浅いせいだろう。「誕生日おめでとう!あなたの健康、長寿をお祈りします。」まだまだ、この習慣は日本に馴染んでいないのかもしれない。

 なんてことをこないだ里帰りした時に友人に話したら、「でも、おまえだって誕生日の恩恵を受けてきたじゃないか。」と言われてしまった。別に、誕生日を祝う習慣が悪いと言ったわけではなかったのだが。でも、確かに僕は誕生日の恩恵を存分に受けてきたと言っても過言ではない。皆が祝っているという理由で僕も祝ってもらってきたし、多かれ少なかれ、プレゼントも貰っていた。
 「ふん、たまにはいいこともしてくれるじゃないか、ヨオロッパさんもさ。」「誕生日を祝うというのはアメリカの風習かもしれないぞ。」「まぁ、どちらでもいいじゃないか。おかげで日本にまた一つみんなで楽しくどんちゃん騒ぎする日が増えたんだからさ!」

 

アンケート

筑波大学 比較文化学類ホームページをより良いサイトにするために、皆さまのご意見・ご感想をお聞かせください。
なお、この欄からのご意見・ご感想には返信できませんのでご了承ください。
In order to improve the website of College of Comparative Culture at the University of Tsukuba, we would like to hear your opinions and thoughts.
We cannot respond to your opinions and thoughts. Thank you for your understanding.

Q.このページはお役に立ちましたか?
スマートフォン用ページで見る